動物福祉と自然と健康豚
【海抜450m】 放牧豚のパイオニア -南アルプスから愛を込めて
動物、人、自然へ”三方良し”の優しさ、そして畏敬の念。
ぶどう畑の脇をすり抜けた小高い丘に、わたしが目指す場所がある。
1978年。
園主である中嶋さんが、日本におけるパイオニアとして完全放牧による養豚の挑戦をスタートさせた年。10年前に初めて訪れた当時といまは、何一つ変わらない風景が目下に広がっていた。少しばかり違うことと言えば、中嶋さんの円熟味が増したことと、隣に新しいスタッフが寄り添っていることぐらいだ。

高度経済成長による公害や大量生産・大量消費に中嶋さんが疑問を持ち始めた約50年前、自然食業界は激動の時代であったと言って過言ではない。全国各地で消費者運動の活発化により多く組織が発足、農家やメーカーを支えながら自身の家族に健康な食卓を優先する社会現象が起こった。
自給自足的な農業や生活を夢見て仲間とともにスタートしたことが農業の第一歩と話す中嶋さんは、その後、現在の農園を引き継ぐ形で独立。日照時間が長く比較的土地が乾燥しているという好立地条件を活かすために、養豚を選択した。それは、日本で前例がない完全放牧への挑戦の始まりでもあった。

類を見ない挑戦は、誰も知り得ない領域。
一般的な養豚は生後間もなく、抗生物質による免疫力アップや早期出荷のために濃厚配合飼料を与える。厳格に管理された豚舎では、その狭さゆうに病気がまん延する恐れがあるため、抗菌剤などを使用する場合がある。また、豚もそのストレスから攻撃的になるのだという。そこには、養豚が商いとしての意味しかなく、動物への尊厳と感謝の念を持って向き合う気持ちに欠けているように感じる。

中嶋さんの農園では、生まれてすぐに放牧場を行き来できる環境下で子豚を見守る。限りなく人為的な作業を省くことが、より自然に逆らわない循環となっているのだ。ただ難点は、飼育から出荷までの期間が長くなることで、経済的に厳しい側面があるのも事実だ。
近年、”放牧豚”という言葉を聞くことが多くなった。ただ一般的に”放牧豚”と謳っている場合でも、出荷間際だけ、もしくは体が大きくなってから特定の期間だけ放牧するケースがあるのも確かだ。中嶋さんのように生後から完全放牧を実践しているのは、非常に稀なケースと言えるだろう。

時代の風は、農園に寄り添う。
彼がいままで歩んできた道のりが、決して平坦なものではなかったことは、彼の言葉ににじんでいた。
「時代は、大きく変わった」
そうつぶやく中嶋さんの言葉の一つひとつには、時代に翻弄されながらも、逆境にめげずに走ってきた力強さと少しばかりの疲労感が垣間見えた。スタート当初から社会の合理性を追求するのではなく、家畜となる動物にも宿る尊厳を大切にしながら、命をいただくという感謝を大切にしてきた彼なりの哲学。いつも彼のような生き様に接するたび、理想と現実の狭間(はざま)で生きる葛藤や苦悩にもがきながらも、カタチとしていく姿に感動をおぼえる。
理想や精神論を追い求めるのか?
それとも自身の生活を優先するのか!?
生産効率を計りながら短期間で飼育・出荷する工業的な生産方式は、わたしたちの食卓を彩る一助になった。ただそれとは引き換えに、動物への尊厳は軽視されがちだ。中嶋さんが歩んできたのはどちらの旅路(みち)かは、彼の背中をみれば容易に理解できた。

年季が入った椅子に腰かけながら中嶋さんと会話する中で、その言葉たちが心に刺さった。それは私が彼とはじめて出会った当時、経営的な厳しさから”暗闇のトンネル”を駆けていた時だとすぐに分かったからだ。私は、とても申し訳ない気持ちでいっぱいになった。なぜ私は、彼の小さな心の声に耳を澄ますことができなかったのかと。
コトコト沸騰するヤカンの音と窓辺に映る真っ青な空が、空虚なわたしの心模様に何かを伝えているようだった。

「やまなしアニマルウェルフェア(動物福祉)認証」で最高ランクの3つ星
日本農業賞の個別経営の部において特別賞
心で唇をかみしめる私を見据えながら、熱く語る中嶋さん。しばらく会わない内に、ようやく時代は彼の功績を形として評価した。山梨県が独自に定めたアニマルウェルフェア(動物福祉)と日本農業賞の特別賞だ。これらの評価にいたる過程で、特に彼が力を入れていたのが、「エコ・フィード」。これは、飼料に使用する原料を近隣から調達することで、食べものの無駄を軽減・有効活用に繋げる取り組みのことを指す。ただこれは、想像する以上に難易度が非常に高い。
なぜなら、調達先の深い理解もさることながら、豚の健康管理を考えた配合が必要になるからだ。そのバランスが崩れると体調を崩すなど悪影響を及ぼす。長年の試行錯誤の中で得た知見をもとに、エコフィード率80%がその努力を体現しているのは明白だった。

”いのち”のメッセージ。
「食べることは、生きること」
これは、私たちがたくさんの生産者やメーカーと語り合った中から自覚した言葉。そして尊い食を考える上で、”感謝”は、決して忘れてはならない。”いのちをいただく”を受け入れることは、生きとし生けるものへの尊厳と自身の心の整えにも繋がる。
もちろん、食は文化であり歴史でもあるため、国籍、人種、宗教によっても千差万別である。そのためそこに決して優越はなく、否定することなく、まずは受け入れることが大切だと感じている。
なぜこのような問いをするかというと、いのちをあずかる仕事は、時として議論の的になるからだ。
あたり一面には、愛らしい桑の実が広がっていた。あまりの光景に息をのむわたしに、そっと目を細めながら語り掛ける中嶋さんが傍らにいた。「山梨は昔、養蚕業がとても盛んであったという。いまは衰退した産業の代わりに、食品加工・流通させるケースがあるらしい。時代が変わるとその景色も変わる。ただ、残すべきものは大切に育まなければ、元には戻らない。」
失って気づく前に、紡ぐ努力をすることは、わたしたち生活者の使命であるように感じずにはいられない。

パイオニアとしての役割。
日本の第一次産業は、とても弱っている。全国津々浦々を旅する中で、いつも同じ光景を目にする。高齢化・後継者不足など気持ちとは裏腹で、現実は切ない。10年ほど前に農園の門を叩いた時から、コロナ渦で世界が危機に瀕した。中嶋さんが見てきた風景も決して平坦ではなかったことは、容易に想像できる。そして、後継者となる人物との二人三脚で、自然と向き合う姿は、わたしたちの暮らしを守る灯台であるように感じる。命の循環を通じて、食べることの意味をもう少し深く考えたい。そして、中嶋さんたちを買い支えることが、いまのわたしたち生活者にとって、少しばかりの可能な支援の一つだと思う。
写真/文 太郎社長(中村太郎)
- 名称
- 豚ローススライス
- 内容量
- 400g
- 原材料
- 南アルプス放牧豚(山梨県産)
- 保存方法
- 冷凍(-18℃以下での保存)
- 生産地
- 山梨県
- 特定原材料等
- 豚肉
- 名称
- 豚バラ肉スライス
- 内容量
- 400g
- 原材料
- 南アルプス放牧豚(山梨県産)
- 保存方法
- 冷凍(-18℃以下での保存)
- 生産地
- 山梨県
- 特定原材料等
- 豚肉
- 名称
- 赤身特上スライス
- 内容量
- 400g
- 原材料
- 南アルプス放牧豚(山梨県産)
- 保存方法
- 冷凍(-18℃以下での保存)
- 生産地
- 山梨県
- 特定原材料等
- 豚肉
- 名称
- 豚挽肉
- 内容量
- 600g
- 原材料
- 南アルプス放牧豚(山梨県産)
- 保存方法
- 冷凍(-18℃以下での保存)
- 生産地
- 山梨県
- 特定原材料等
- 豚肉
- こちらの商品は産地直送冷凍便でお届けします。

生産者: ぶぅふぅうぅ農園
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