神々が集う出雲で奏でるご夫婦の物語
【海抜2m】思いの言霊 未来を紡ぐ葡萄畑の“デラウェア”

未来へ続く水平線の向こう側には。
「耕作放棄地が減って、地域社会が循環すれば良いなあと思います」
少し汗ばむ陽気の初夏の朝、わたしを出迎えてくれた桑本さんご夫婦の一言。出雲大社のほど近くで、十数年前から化学肥料・化学農薬・除草剤など使用せずに、丁寧な葡萄栽培を大切にされているお二人。他の地域から引っ越してきたその当時、彼らが選んだのは、農家にとってはありがたい作業場付きの古民家だった。そこには、彼らのこだわりと強い覚悟が垣間見えた。
訪問のきっかけは、いつもの出会い探しの旅の計画中。果物生産者を探し求めている時に、ふと小さな記事に目が留まった。
「わたしたちは、作物たちが成長していくために、ほんの少しお手伝いをしているだけです」

日本は高温多湿のため、葡萄栽培には細心の注意が必要だ。少しでも気を抜くと、生態系のバランスが崩れ、病気が蔓延する。桑本さんも当初は、思いとは裏腹に苦労の連続だったという。デラウェアは他の品種に比べて病気に強い特性を持つが、それでも病気や害虫による被害に頭を悩ませたようだ。そのため、肥料の配合や栽培方法の改善に熱心に取り組んだことで、年々その効果があらわれ、現在のような自然と畑の調和が実現したのだという。植物・生物・水脈に悪影響を及ぼさないように、ボルドー液や石灰硫黄剤など伝統的な農業資材のみを使用することで、環境負荷の低減にも努めている。
「いつも、糖度20度を基準に収穫時期を決めています!」
少しずつ積み上げた成果が、その言葉に自信として宿っているように感じた。

自然のリズム、農業のカタチ。
全国津々浦々を旅する中で、その土地が抱く風土が人々を育み、農が彼らの生活と命を守る光景を見てきた。決して無理せず自然を受け入れながら時間を刻む農業は、生態系に悪影響を及ぼすことはない。ただどうしても、無理をする・手を広げすぎる・自然に逆らう、と何かが壊れはじめる。
また、彼らのような持続的な農業には、経済的な側面以上に、自然環境と農業者の健康という大切なキーワードがあることを忘れてはならない。身体を壊すような無理を避けた農業は、金銭的な価値以上の”心の幸福度”へと繋がることだろう。

植物たちとの競演は、優しさの波紋となって。
前述した”地域社会への還元・循環”は、桑本さんご夫婦が大切にしている思いのひとひら。そこには、彼らの普遍的な考え方や生き様がある。時として、個性を重視しすぎる偏重した社会は、バランス感覚を失う。人とヒトの繋がりで成り立つ世の中は、隣の誰かを思い、行動する役割が必要だ。
相手を思い、相手のために。
決して平坦な人生など、なるはずはない。ただ彼らの葡萄畑には、”思いの言霊”が宿っている。幾重にも折り重なり生い茂る植物たちとともに生きる畑には、優しさを謳う未来の回廊がそこにある。

葡萄畑から出た瞬間、その涼しさに心が和らいだ。葡萄棚は、植物たちの活動で極端に湿度が高かったのだろう。
ただ、桑本さんご夫婦の人柄とワクワクする気持ちに満たされたわたしの心は、蒼い出雲の空のようにどこまでも澄んでいた。
旅の途中 島根県出雲市
文 / 写真 太郎社長(中村太郎)
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生産者: 稲田農園
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